前立腺がんの放射線治療
放射線治療は、目に見えない高エネルギーのX線、粒子線などを用いてがん細胞の遺伝子を破壊し、がんの増殖を抑えたり死滅させたりします。外照射療法と組織内照射療法の2つに大別され、年齢を問わず治療が受けられます。ほとんどの病期が放射線治療の対象となります。
放射線治療と手術は根治が期待できる治療法で、限局性のがんにおいては、治療の効果はほとんど同等と考えられています。
前立腺がんの放射線治療における副作用としては、頻便や直腸出血などの直腸障害が生じることがあります。
しかし、近年はどの放射線治療にも使用できるスペーサーにより、直腸での副作用は最小限に抑えられるようになってきています¹。
References:
1. SpaceOAR Hydrogel Spacer for Reducing Radiation Toxicity During Radiotherapy for Prostate Cancer. A Systematic Review
Author: Nigel Armstrong,Amit Bahl,Michael Pinkawa,Steve Ryder,Charlotte Ahmadu,Janine Ross,Samir Bhattacharyya,Emily Woodward,Suzanne Battaglia,Jean Binns,Heather Payne
Publication: Urology, Publisher: Elsevier, Date: October 2021
放射線治療の作用機序

1.健康な人でもがん細胞は毎日発生していますが、免疫細胞の働きで自然と排除されます。しかし、がんが大きくなると免疫細胞だけでは退治できなくなります。

2.放射線が当たったがん細胞は遺伝子が切断されて、がん細胞が死滅していきます。

3.小さくなったがん細胞は免疫細胞の働きにより退治されます。
外照射療法
3D-CRT(三次元原体照射法)
治療範囲を三次元のCT(コンピュータ断層撮影)の情報に基づいて対象臓器の形に絞り込み、X線を照射します。通常36~40回(5日間/週で7~8週間)程度の照射を行います。1回の照射時間は15分程度と短く、通院で治療を行えます。

IMRT(強度変調放射線治療)
3D-CRTを進化させたもので、より精度の高い治療が行えます。部位により放射線の強度を変えることができるため、強く当てたいところと、弱くしたいところを調整しながら照射します。
そのため、周りの臓器への影響が少なく、通常の放射線治療と比べて1回の照射線量をあげて治療回数を少なくする(20回程度)ことができます。また、その中でも回転式の装置を使用した治療法をVMAT(強度変調回転放射線治療)といいます。

SBRT(体幹部定位放射線治療)
高線量を狭い範囲にピンポイントで照射できる治療法で、治療期間は5回程度と少なくなります。欧米では、良好な結果が報告されていますが、10年以上の長期成績はまだ出ていません。

放射線治療装置(外照射療法)

粒子線治療(陽子線治療、重粒子線治療)
X線は照射された皮膚近くで最もエネルギーが高くなり、体内へ進むにつれて弱くなっていきます。粒子線は、体内のある位置でエネルギーが最大になる性質があるため、目的のがん組織の位置で最大になるよう調整することが可能です。そのため、他の臓器への影響が少なくできるといえます。ただし、大掛かりな装置が必要であり、通常の施設では設置できず、場所によっては気軽に通院することができません。治療直後に、排尿痛、頻尿などの排尿障害、便意切迫などの合併症が時々起こります。手術治療後のような尿失禁が生じないのが長所です。晩期の合併症として、血尿、血便、頻尿が起こることがあります。

組織内照射療法(小線源療法)
前立腺の組織内に線源を直接入れて照射するもので、放射線の線量が高いため外照射に比べて抗腫瘍効果が高く、再発率が低下します。治療直後は、頻尿や排尿障害が起こりやすくなりますが、通常1~2か月で治まります。
晩期の合併症としては肛門からの出血や性機能障害が起こることもあります。
LDR(永久挿入密封小線源療法)
放射線をだす線源を前立腺の中に入れて組織内から照射する方法です。がんのすぐ近くに線源を置くことで、高い線量を照射することが可能となり、悪性度の高いがんの治療に有利となります。線源は永久留置することになりますが、放射線の線量は徐々に減っていき1年後にはほとんど照射されなくなります。

HDR(高線量率組織内照射)
前立腺に針を刺し、針に線源を通して高い線量を短時間だけ照射します。
数回に分けて照射することが多く、針が刺さっている間は安静が必要となります。多くの場合で、外照射を併用します。
放射線治療の合併症予防「スペーサー」
現在、前立腺がんの放射線治療による直腸への合併症予防のため、特殊な医療材料(スペーサー)が広く普及してきています。放射線治療を受ける前に、スペーサーを前立腺と直腸の間に留置することで、直腸を放射線の高線量域から離すことができます。直腸が受ける放射線量が少なくなることで合併症を減らすことができます。
スペーサーは、約3か月間スペースを維持して、半年から1年で自然に吸収され体外に排出されるため、体内には残りません。このスペーサー留置は保険適用となっており、一部の方を除き、ほぼすべての前立腺がんに対する放射線治療で使用することができます。

放射線治療についての関連リンク
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※放射線治療に関するより詳しい情報は、日本放射線腫瘍学会のウェブサイト等にてご確認ください。